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【寄稿:第2回】 顧客志向で、ワクワクするビジョンを描く――CIOが未来を語ることの戦略的意味とは何か

はじめに:なぜ今、ビジョンが問われるのか 

デジタル技術の進化が加速し、生成AIをはじめとする新しい技術が次々と登場する中で、企業を取り巻く環境はますます不確実性を増しています。こうした時代において、CIOに求められる役割は、デジタルを「どう導入するか」から、「どんな未来を実現したいのか」を語ることへと、大きく広がっています。そのときに特に重要になるのが、「顧客志向」と「ビジョン」です。 
顧客の興味・関心が高度化・多様化する中で、単なる機能的価値の提供や業務効率化、コスト削減だけでは、企業が世の中から選ばれ続けることはありません。顧客の期待を超える体験を創造するためには、CIO自らがワクワクする未来像を描き、それを会社・社会と共有することが必要不可欠になっています。 

「われわれの顧客は誰か?」「顧客にとっての価値は何か?」 

経営学の父と言われるピーター・ドラッカーは著書『経営者に贈る5つの質問』で以下の5つの質問を読者に問いかけています。 

1. われわれのミッションは何か? 

2. われわれの顧客は誰か? 

3. 顧客にとっての価値は何か? 

4. われわれにとっての成果は何か? 

5. われわれの計画は何か? 

5つの中でも大事なのが、2に出てくる「顧客は誰か?」だと思っています。ここでいう顧客とは「満足させるべき人たち」全般を指すことに注意が必要です。商品・サービスを購入・利用していただく「直接の顧客」だけではなく、組織活動においてサポート・支援をしてくれるスタッフや社外パートナー企業など、「パートナーとしての顧客」も含むのです。 

ではIT部門にとっての顧客はどうでしょう?ITシステム・サービスを提供する経営層や業務主管部門、従業員、グループ会社に加え、活動のプロセスで一緒に働く上司・部下・同僚やパートナー企業も入ります。さらにはESG経営を進める上では、社会や地球環境も含むと捉えることができます。なぜなら「顧客とは満足させるべき人たち」だからです。このように顧客は多種多彩で、それぞれの欲求、要望・希望も様々であるため、仕事を進める上では最初の段階で顧客に「共感」することが大事だと考えています。 

一方、3の「顧客にとっての価値は何か?」にも顧客という言葉が出てきます。私は「価値」という言葉を使うとき、いつも「価値ピラミッド」を思い浮かべるようにしています。価値ピラミッドの具体例として、私が現在携わっている関西電力のDX推進で提供できる価値を取り上げます。 

この図のように価値ピラミッドは、「機能的価値」「情緒的価値」「社会的価値」の3層から成ります。機能的価値は機能・品質やコスト・時間・労力削減などで、DXでは主にオフィス業務DXの推進により価値提供されます。情緒的価値は信頼の蓄積や不安軽減、物語性、面白さといった感情に訴求するもの、社会的価値は社会貢献、自己実現や他者への奉仕といった社会的な価値です。このように考えると、他社との差別化を図り競争優位を築くには、機能的価値だけでなく情緒的価値や社会的価値へといかに価値向上できるかと、価値提供の範囲を、社内やグループ会社に閉じるのではなく、業界や顧客・社会全体まで広げることが重要だということが分かります。

顧客志向とは、「顧客の言うことをただ単に聞くこと」ではない 

「顧客志向」という言葉は、以前から多くの企業で使われています。日本においても「お客さまは神様」という言葉があるように、「顧客志向とは顧客の要望に応えること」と同義で捉えられているケースも少なくありません。 

一方で、私の考える顧客志向とは、顧客が今言語化している、顕在化された要望・ニーズに応えることにとどまらず、「顧客自身もまだ気づいていないニーズや不平・不満は何か?」「なぜ今消費者はその行動をとっているのか?」といった背景・意味づけまで踏み込んで考える姿勢だと考えています。 

さらに顧客志向を進めていくと、顧客は単に商品・サービスを使うだけのユーザーではとどまらず、一緒に共創して未来を創る仲間としての「ファン」になります。私が以前携わっていた格安スマホサービス「mineo(マイネオ)」においても、顧客は「一緒に未来やブランドを創っていく仲間であり同志である」と位置づけた上で、ファンの皆さんと一緒に商品・サービスを共創していました。 

ビジネスとITが一体不可分となった現在、デジタル技術は顧客理解や顧客体験を飛躍的に高める力を持っています。データを通じて顧客の行動を可視化し、仮説を立て、検証を繰り返すことで、より深いインサイトにたどり着くことができ、顧客体験を飛躍的に向上させることができます。CIOは、この業務プロセスを技術面から支えるだけでなく、顧客志向で物事を考えるマインド・思考を組織全体に根付かせる役割を担う必要があります。

以下に、関西電力のDXビジョンを掲載します。家の構造に例えるならば、「家に当たるのが事業部門DX+オフィス業務DX」、「基礎・土台としてのDX基盤」「土壌としての組織風土改革」を全体的に進めながら、中期経営計画の実現を目指しています。 

ビジョンがなければ、顧客志向は続かない 

顧客志向を掲げる企業は多いものの、取り組みが点在し、長続きしないケースも見受けられます。その大きな理由の一つが、「ビジョンの不在」だと考えます。ビジョンとは、単なるスローガンや将来像の宣言ではありません。「私たちは、誰のために、どんな価値を提供し続けたいのか」を、組織全体で共有するための根幹となる絵姿です。

CIOが描くDX・AIのビジョンは、技術的な内容に閉じたものである必要は全くありません。むしろ、顧客や社会の視点から見たときに、「この会社の商品・サービスを使いたい」「この会社と一緒にビジネスをして関わり続けたい」「この未来なら応援したい」と感じられるものであることが重要です。ビジョンが明確であれば、限られた経営資源をどこに選択・集中させ、コア・コンピンタンスや強みを活かすことで、DX・AIを推進し、価値創出と生産性向上を図ることで競争優位を確立するか、持続的成長を実現するのかの道筋が見えてくると思います。 

ワクワクする未来像が、組織を動かす 

人は、単に正しいことや合理性を説明するだけの「論理」では動きません。「やってみたい」「その未来を見てみたい」という「感情」を伴ってこそ、納得した上で主体的な行動につながります。

CIOが語るビジョンに「ワクワク感」が感じられるかどうかは、組織に属する一人ひとりの納得性を高めると同時に、組織の推進力、ビジョンの実現スピードを大きく左右すると考えます。ここで言うワクワク感とは、派手な表現や夢物語を意味するものではありません。私自身、「ワクワクは、未来を創り出す原動力であり未来への架け橋」だと考えています。「この方向に進めば、今よりも良い仕事ができそうだ」「自分たちの仕事が、顧客や社会の役に立っている実感が持てそうだ」と、会社の一人ひとりが自分事として想像できる未来像です。 

CIOが、顧客志向で描いた未来を、自分の言葉で語り続けること。その積み重ねが、組織の内側から力強い推進力を生み出すと考えます。 

CIOは「顧客価値・未来を言語化し語るストーリーテラー」である 

顧客の声や経営の意思、ヒトとAIの役割分担など、これらは、それぞれが別々の場面・文脈で語られがちです。CIOに求められているのは、それらを単に整理して別々の問題・課題として解決することではなく、一つの「意味ある物語」として描き直すことではないでしょうか。 

顧客は、企業に対して、個々の商品・サービスや機能・効用を評価しているわけではありません。掲げたミッション・ビジョン・バリューを通じ、企業としてどんな価値を顧客・社会に提供し、どんな未来を共に歩もうとしているのか――その全体像を体験として受け取っています。 

CIOは、顧客の期待や不安を起点に、経営の今後の方向性とデジタル技術の適用可能性を重ね合わせ、会社が進むべき未来を「語れる形」にする存在です。 

ワクワクするビジョンとは、抽象的な理想論ではなく、顧客と社員の双方が「その未来を創り出す活動に参加したい」と感じられる物語です。CIOが顧客価値のストーリーテラーとなることで、ビジョンは単なる言葉から、会社全体を動かす推進力へと変わっていくと考えます。図形おわりに:未来を語れるCIOであるために 

顧客志向で、ワクワクするビジョンを描き、言語化して会社・社会に伝え続けることは、決して簡単なことではありません。VUCAの時代では正解がなく、試行錯誤を伴い、ときには批判にもさらされます。 

それであっても、「CIOが未来を語らなければ、誰が語るのでしょうか。」と私は考えます。 
技術と経営、顧客と会社の交差点に立っているCIOだからこそ描ける未来というのが必ずあると思います。 

顧客の期待を起点に、ワクワクする未来像を描き続けること。そのビジョンが、組織を動かし、結果として顧客の期待を超える体験を生み出していく――。 

CIOのビジョンは、会社の未来そのものです。VUCAの時代だからこそ、顧客志向という原点に立ち返り、希望の持てる未来を語り続けていきたいと私は強く思います。 

次回の予告:『課題 × デジタル = 価値 ⇒ 成果 ⇒ 成長・変革』――CIOが描くべき、成果・成長に直結するDXの方程式(第3回) 

・まずは「課題」から始める 

・デジタルは「掛け算」である 

・成果を出して初めて、成長と変革が始まる など 


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Source: News

Category: NewsMarch 4, 2026
Tags: art

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